腰部脊柱管狭窄症

脊椎の中で、特に腰の部分にある重い体を支えている脊椎を腰椎と呼びます。全部で5個あり、骨盤に接続しています(下図・左)。ひとつひとつの腰椎は、下図・右のように複雑な形をしていますが、大雑把に言えば、わっかのようなブロックをした骨です。そのわっかを脊柱管といいますが、その中に足や膀胱などへ行く神経がたくさん入っています。


それぞれの骨はばらばらでは困りますので、連結装置がたくさんついています。その中で、特に重要なのが、輪の前にある軟骨でできている椎間板(左図)というものです。これがあるので、上下がしっかり連結し、なおかつ、腰の曲げ伸ばしのときに、クッションとなってくれているのです。

■腰椎椎間板ヘルニア、そして腰部脊柱管狭窄症

椎間板は本来みずみずしいものですが、20歳前後くらいから年齢とともに水分を失ってきます。すると、骨の間の動きがスムースに行かなくなります(ガタガタする)。その後、年齢を重ねるごとに、椎間板がつぶれて出っ張ってきたり、脊柱管の中の支える靭帯もガタガタの代償として厚くなってきます。

特に、ひどく椎間板の中身(髄核というゼラチンのようなもの)が後方に飛びだすと、脊柱管の中にある神経にぶつかってしまい、神経痛(多くの場合、坐骨神経痛)を起こす状況を椎間板ヘルニアと呼びます。しかし、これほどひどくならずに、ちょっと潰れたりすることが多いので、腰椎とくに椎間板の老化は徐々に進んでくるわけです。長年にわたって進行すると、結果として、脊柱管にとっては、前から椎間板は出っ張ってくるし、後ろにある腰椎の連結組織である関節も出っ張ってきたり、その内側に腰椎を繋ぎとめている絆創膏のような靭帯(黄色靭帯)もグラグラを補助しようとして厚くなって、狭められちゃうわけです。そういう状況では、下の図の右側ように、骨の中のワッカである脊柱管が狭くなってきます(狭窄状態)。すると、その中に入っている神経が圧迫つまり首を絞められているような状態になります。これを「脊柱管狭窄症」と呼んでいます。

加齢に伴う現象ですから、シワや白髪のようなものですし、調査によりますと日本人の70歳以上の7、8人に一人はこの病気を持っていると言われています。つまり、高血圧や糖尿病などと同じように、非常に身近な病気ということになります。

ただ、神経が締めつけられて、神経痛が出たりするので、困った病気なわけです。

■症状

腰のガタガタのため、多少なりとも腰痛もあるようですが、問題となるのは首をしめられた神経の方です。足や膀胱へ行く神経が障害されるので、歩いていると足がしびれたり、はれぼったく感じたり、力が入らなくなりして、歩けなくなることが多いです。しかし、腰を曲げて少し休んでいると、しびれも取れてまた歩けるようになります。つまり、歩いて休んでと言うことを繰り返すことになります。これを「間欠性跛行」と言います。その歩ける時間がだんだん短くなってくる方が多いです。あるいは、足に行く神経一本がひどく圧迫され、どちらかの足やお尻あたりが痛くてしょうがなくなるということもあります。この症状は「坐骨神経痛」と呼ばれており、椎間板ヘルニアのように、ある日突然急に起きることはなく、ゆっくりとおきてくることが多く、また、良くなったり悪くなったりを繰り返すかたもいます。

さらに長期間経つと、膀胱への神経の圧迫により、排尿のトラブルなどが起きてきます。

 

■診断・検査

レントゲンをとっても圧迫されている神経の状態はまったく判りません。つまり、歩きにくくなっているのに、レントゲン撮影で「腰の骨が変形している…」と言うことで、中途半端な治療を続けるのは非常に良くないです。レントゲン撮影では骨の状態しかわかりませんからね。

腰の骨の中の神経の状態を正確に診断するには、MRIという検査を受ける必要があります。

 

■治療

物理的な圧迫により「神経が首に絞められている」いるわけですから、薬による効果はあまり期待できません。痛み止めやビタミン剤などの通常のお薬が効くことは稀です。唯一効果が期待できるのが、圧迫された神経の血の巡りをよくしてくれるお薬です。試してみる価値は十分にありますが、効かないのにだらだら言いなりになって飲むのも良くないでしょう。痛み止めも最近は何種類かよいものが出てきたことは確かです。しかし、これらの薬物療法は根本の原因を取り除くわけではありません。さらに、理学療法としての牽引などしてもまったくと言っていいくらい効果は期待できません。また、痛みが強い時期にはペインクリニックなどでの痛み止めのブロックもいいでしょうが、基本的にはこれとて痛み止めの薬と変わりませんので、一時的なものであり、抜本的治療でないことはご理解ください。

ただ、時間が解決してくれることもあり得ますので、「時間を稼ぐ」という手段での可能性は追求するにこしたことはありません。一方で、物理的な変形がある以上、最終的には「手術」を視野に入れなくてはいけなくなることも稀ではありません。

 

■進行予防

病気の本質が腰椎のガタガタですから、これをサポートするためには、腰の周りの筋肉つまり腹筋や背筋を鍛えることが、自分で出来る進行予防の一つの手段です。あるいは、椎間板への加重を減らすには、体重を落とすことも必要かもしれません。

しかし、サプリメントも含めた食事などで、椎間板のガタガタを防ぐことは出来ないことはよく理解していただきたいと思います。

 

■手術の決断・セカンドオピニオンの勧め

手術は医者が決めることではなくて、患者さんが医者から正しい情報(どのくらいの確率で、何が治るのか?手術での不利益はどのくらいの確率で起きているのか?痛みはどのくらいか?、入院期間、費用は?)を得て、患者さんご自身が決めるのが一番です。そうは言ってもなかなか難しいので、病状の評価や手術の決断に際しては、専門家である医師からの正確な情報が欲しいですよね。また、一人の医師からのでは、限られた情報になるおそれもありますし、家を買ったり車を買うのと同じように、セカンドオピニオンを受けることをお勧めします。たとえば、これまで整形外科にかかっていたのなら、脳神経外科の医師に聞いてみる、逆に、脳神経外科にかかっていたのなら、整形外科に聞いてみるというのは良いかも知れません。文末に述べてある整形外科と脳神経外科 でこの病気を専門にしている団体である学会を参考にされてください。

 

■手術方法

手術は全身麻酔で行います。実際、種々の手術方法が紹介されていますが、顕微鏡を使ったり、内視鏡を駆使するなど進歩をしておりますので、「低侵襲」という言葉が出ておりますが、基本的には大きな差異はないと思います。。手術時間は患者さんの手術部位の状態によって異なりますが、どの手術法でも、通常2-4時間くらいです。

 

■手術の危険性は?

手術そのもので命にかかわることはありません。麻酔をかけるという問題や、術後に肺炎や血栓症(エコノミークラス症候群)を起こしてしまうと生命にかかわることがありますが、これはどの手術でも起こり得ることです。

その他でなにかトラブルが起きる確率は5%程度だと思います。 これには種々のもの(傷のつきがわるいとか、ちょっと術後に膀胱炎になったとか)が含まれますが、神経そのものを傷つけてしまう確率は1%程度であることが多いと思います(足の動きが悪くなったり、痛みが強くなったり)。

 

■手術後は?

傷の痛みは3日程度続きますが、手術の翌日からトイレくらいは歩いてもよろしいでしょうし、ベッドの上で座ることもできます。したがって、術後の老人ボケとか肺炎・血栓症なども起こりにくいでしょう。手術後、点滴も3日間ほどでなくなります。傷が綺麗になった4日目以降に、多くの方は退院されます。

 

■手術は怖い!!

どなたでも、手術は怖いかと思います。危険性は1、2%くらい神経が傷つくことはないとはいえ・・怖いと考えるのは当然のことです。

たまたまですが、僕が開発に関わったデバイスが2020年5月には国内で使用できるようになったのですが、これを麻酔下で腰椎の浅いところに設置することで、「腰椎を座っている状態にする」という目的が達せられものがあります。つまり、歩けるようになるわけです。

この手術ですと、神経を傷つけることは全くありませんので、どんなご高齢の方でも危険が極めて少なく、安全に行うことができます。

Swift systemと言いますが、ご相談に乗れますので、遠慮なくご連絡くださいませ。

 

■整形外科?脳神経外科?

今回の腰部脊柱管狭窄症脊柱管狭窄を代表とするする脊椎・脊髄疾患は、運動器である脊椎(背骨)と重要な神経組織である脊髄という二つの性格の異なる臓器が合わさった部分に起きた病気です。これらの病気を扱うあるいは手術するのは、運動器(骨や関節)を扱う整形外科がよいのでしょうか?神経を扱う神経外科(日本では脳神経外科と呼んでいます)がよいのでしょうか?

現在では整形外科・脳神経外科それぞれ中で、専門的に手術を行っている医師(指導医などと呼ばれる医師)が多くなってきました。したがって、専門的な医師であれば、どちら科でも心配は要りません。つまり、神経も扱える整形外科医、運動器も少し扱える脳神経外科医であるなら。

そのような医師をお探しの場合、それぞれ整形外科、脳神経外科のなかで、脊椎脊髄外科を専門にしている医師の集まりがありますので、そのHPにいかれて探されてみてはいかがでしょうか?普通のネットではコマーシャルが溢れていますが、この二つの学会のものは、公式のアナウンスと思って信用していただいてよいと思います。

日本脊椎脊髄病学会(整形外科が母体)

日本脊髄外科学会(脳神経外科が母体)