頸椎症

頚椎とは、首の中にある脊椎(背骨)のことで、普通7個あります。左の図は、頚椎を上から見たところです。絵の上が前方(首の前のほう)で後ろのとんがっている部分が後方の出っ張りで棘突起と呼ばれ、皆さんも首の後ろで硬くて、触れるとおもいます。

この頚椎は、7個でつながっているわけです。重い頭を支えて、頭を右や左、前後、左右に動かしているわけです。

その間の連結装置が軟骨で出来た椎間板と言う組織です。その周りにセロハンテープのような靭帯とかさらに首の周りの筋肉などが頭の周りのほうまで包んで張っているわけです。

働きはそれだけでなく、わっかのような骨の中には、脳の続きの脊髄と言う組織が入っています。これは脳からの命令を手足に伝える、手足の情報を脳へ伝える、非常に重要な組織なわけです。これが壊れてしまったら、手足は動かなくなってしまうわけです。

頚椎にある椎間板は年齢とともにガタガタしてくるので、いろいろな病気を起こします。

これは、首を動かしている以上、致し方ないところがあるわけですが。

 

代表的な疾患は以下の三つです。

1.頚椎椎間板ヘルニア (学会HPへ)

2.変形性頚椎症あるいは頸部脊椎症 (学会HPへ)

3.頚椎後靭帯骨化症  (学会HPへ)

 

今回は、このなかで一番多い、変形性頸椎症のお話をさせていただきますが、そのほかの病気に関しては、脳神経外科 の医師で脊椎脊髄疾患を専門に扱っている、日本脊髄外科学会のHPでご覧になってください。

頸椎症

■病因・病態

頚椎の椎間板が老化によって磨り減ってしまい、クッションとしての役割を果たさなくなると、骨同士が直接ぶつかり合います。この結果、骨にトゲ(骨棘:こつきょく)が出てきます。また、背骨の中(脊柱管)のテープである「靭帯」も厚くなってきます。すると、脊柱管つまり脊髄・神経の入れ物のスペースが狭くなってくるため、脊髄や神経が圧迫されることがあります。つまり、単純に椎間板の老化が引き起こす首の痛みや凝り(肩こり)だけにとどまらず、神経までが侵されることがあるわけです。その状態を総称して「変形性頚椎症」あるいは「頸部脊椎症」などと呼んでいます。

右に変形性頚椎症の方のMRIを示します。

首を横から見たもの。左がのど側、右が首の後ろ側で、上が頭です。

四角い骨が脊椎の「椎体」と呼ばれる部分です。その間にある、黒く映った凸レンズのものが椎間板(上の矢印)と言う軟骨です。

軟骨が磨り減っていて、後ろの方向へ骨(椎体)からの出っ張り・骨の棘のようなもの(骨棘といいます)が出できて、後ろにあるグレーの部分の脳みその続きの脊髄(下の矢印)を圧迫しています。

脳と脊髄の周りは髄液という水が循環しているので白く見えています。

脊髄の前後にも本来は十分に水のスペースがあるはずですが、首の真ん中辺りで、脊髄が前後から圧迫を受けて、水のスペースがなくなっています。

さらによく観察すると、脳の続きで本来黒っぽく見える脊髄の内も白くなっています。これは、脊髄に傷がついている状態を示しています。

左の図は、頸椎症の輪切り(水平に首を切ったところ)です。

前方(上)の頸椎の椎体という部分から骨の棘(骨棘)や後方(後ろ)から靭帯が厚くなってくることで、中の脊髄が挟みうちにあって潰れているイメージ(脊髄症)を手書きしました。

 

この出っ張りが、横の方だと、脊髄は大丈夫ですが、神経が圧迫を受けることになります。

■症状

症状は大きく分けて3つになります。

①    頚椎のガタガタからくる、首の痛み、肩の凝りなどが一般的です。これを軸症と呼んでいます。

②    頚椎の間からでる神経が、骨棘やでっぱった軟骨(椎間板)で圧迫されて、痺れや痛み、あるいは腕が上がらない・・などの症状を出すことがあります。これを神経根症と呼びます。

③    頚椎の中にある脊髄が骨棘や軟骨などで圧迫を受けて(上の図の状態)、手足への命令がうまく伝わらなくなったり、手足からの情報が脳へ伝わらなくなり、手足が動かなくなったり、しびれたりする状態で、これを脊髄症と呼んでいます。

 

■診断・検査

レントゲンでは骨のガタガタが見られるので、それだけで診断されることが多かったです。しかし、これでは軟骨の状態や中の脊髄の状態などはまったく判りません。特に、上記の症状のうち、少しでも神経にかかわるような症状、つまりシビレや動きの悪さなどを自覚するようなら、主治医に訴えて、MRIを撮ることをお勧めします。

 

■治療

基本的に、誰でも、老化によってある程度発生する症状です。つまり必要以上に病気であると考えないほうがいいと思います。

椎間板ヘルニアのように比較的軟らかい軟骨が出ているわけではないので、また、首は動かすわけですから、大きな改善は望めないように思うかもしれません。しかし、特に手の痺れのような神経根症の場合などは、時間(半年位かもしれません)とともに自然に解決することも多くなっています。

医者には患者さんの痛みを理解はしても、実際に見えているわけではありません。ともかくご自分で痛みの起きる首の位置などを避けることが一番です。夜寝るときなど、枕を工夫するのも手です。軟らかい枕を2つくらいいろいろ組み合わせて、そのときの状態で変える(首の下に入れたり、頭の下に入れたり、横を向くときは高くしたり)と、痛みが軽減されることがあります。

首の周りの筋肉の緊張を取るために、暖めたり、超音波やレーザーを当てたりすることも行われています。古くから、「牽引療法」も良く行われています。民間療法として、針灸、マッサージ、その他、なかば新興宗教に近いようなものまで種々の治療法があります。しかし、痛みが取れない治療法をいつまでも続けるのは時間とお金の無駄であることをよく認識してください。なお、カラーの装着は長くても2ヶ月くらいでしょう。

ともかく、レントゲンだけで、「首が変形しているから…」と言うようなことで、あるいは「外から見て骨が曲がっているから・・」などということで、漫然と治療をするようなことは避けるべきです。しっかりと正確に診断して見通しを立てることが一番です。

 

■脊髄がやられていると状況が違う

一番重要なのは、手足の動きに問題がある時です。この場合、脊髄症状の可能性が高いですから、早く専門家に今後の見通しを立ててもらうべきです。しびれも手足に来ている場合などは、やはり同様に脊髄が障害されている可能性が高いでしょう。

見通しは、患者さん個人によって異なると思います。しかし、今後数年の間に、脊髄の圧迫により手足の動きが悪くなって、歩けなくなってしまう確率がある程度(たとえば20-30%)あるなら、その事態は避けたいわけですから、更なる手段を探すことも当然と思います。悪くなってからは戻りようがありません。

医学的に言えば、物理的に圧迫があるわけですから、薬などで骨の出っ張りを溶かすことは出来ないわけです。ですので、抜本的な治療を薬などに求めることは出来ません。

端的に言えば、「大工仕事」でしか現状を脱却できない・つまり、手術と言うものを視野に入れる必要があります。

もちろん、手術だって危険(リスク)はありますが、通常は1、2%程度なんです。ともかく、下にあるような正式な学会のHPなどを参考にして、よくお考えになってくださいませ。

 

お悩みな時はセカンドオピニオンはとてもいい選択だと思います。

当院ではもちろん、手術をするわけはないのですが、セカンドオピニオンは受け付けております。